最も印象深い税務調査〜第四章

社長が署に来る約束をしてたが突然、自宅に来て欲しいと連絡が入った。特に何も考えずに私は約束の変更を了承した。当日の朝、約束の時間にインターホンを押す。オートロックが開く。部屋に入った。通された部屋には明らかに、あちらの社会で生きている人が3名ソファに腰掛けていた。やられたぜ、ハメられた。まあ、見る限り三下のゴロツキだ、久しぶりのパターンか。めんどくさいだけだ。

まあ、しょうがないハメられた俺のミス。その中の一人は手にガラス製の灰皿を持ち何か意味ありげだ。

いきなり、年長者と思われるヤツが言った。思いっきり威圧して。お前が集めた銀行の資料が見たい。それは無理です。私には守秘義務が課せられています。それと国家公務員の私が収集した資料はメモ書き一枚でも公文書ですから。公務員だろうがなんだろうがガキは言うこときけ。そう言われた記憶があります。あっ、こいつ指ねえな。そんなことを思いました。

本来、こうした状況になった場合は公文書の確保と身の安全を重視し速やかにその場を立ち去り、警察と署に連絡することになっている。以前に別件の事案で、たぶん、私が核心をついたのだろう。事務所内で社長に投げ飛ばされた事があった。普通なら現場を引き上げるのだが、私はこれを利用した。傷害罪だ、目撃者もいる。警察呼ぶか。そう言ったら税理士が頭を下げる。傷害で逮捕されたら仕事どころじゃない。許して欲しい。社長は警察いく覚悟あるよね。社長も頭下げた。取引をした。全部、隠してる物出せ。

少々、痛い思いはしたが会社の規模の割には数千万の所得隠しが表に出た。

手を出したヤツは負ける。今回のヤツらもバカではない。手を出せば何年か打たれることもある。しかも相手は堅気で国家公務員だ、わざわざ自分でオトコ下げるようなもんだ。この時、私はこいつらから逆に情報を抜いてやろうと思った。さて、どうするか思案のしどころ。

ヤツらが欲しがってるものは分かってた。ヤツらの仕事の根幹に関わる金の流れ。ヤツらも下手打つとヤバい立場にあったのもわかる。この時も取引材料を探した。俺の腹は痛まずヤツらの顔を立ててやることのできる取引。こっちは税金さえ申告してくれればいい。その金が綺麗な金でも汚れてても関係ないから。

税務職員っていうのは、何が何でも課税漏れの金がないかにこだわらないと、組織の中でも干される。ここから這い上がっていいポストをもらって偉くなる。

官房系から入った連中はこんな思いをしなくても偉くなれるが、一度、すねに傷が付くともろいやつが多い気がする。

私は田舎から三流のクソ大学を出て国税の組織に入ったから、泥臭く、悪知恵を働かせないと偉くなれない。私は偉くなることだけを考えていた。田舎者の野心と一旗あげて田舎の親に自慢させてやりたい。そんなことを考えてた。

(つづく)